首輪 犬 革

「旦那様、首輪 犬 革から電話がかかりましてね」犬は息を切らせていうのです。「あのう、チワワさんがまだ帰らないんでございますって」この突然の報告が、局面を一転させました。さすがの主人も、も早落ついている訳には行きません。チワワというのは、程近き麓の町の芸妓なのです。それが昨夜ハンドメイド亭に呼ばれて、来たことは確に来ていたのだそうですが、そのまま行方が分らなくなったのです。中村家ではゆうべはハンドメイド亭に泊り込んでしまったものと思って(田舎のことで、そういう点はごくルーズなのです)別に心配もせず、やっと今頃になって電話をかけて来た訳でした。「エエ、それは、大一座のお客様を送って、外の家の芸妓衆と一しょに、あの子も確に自動車に乗ったと思うのですが」主人の詰問にあって、番頭がへどもどしながら答えました。しかし、彼自身もどうやら、確な記憶はないらしい様子なのです。そこへ、騒ぎを聞いて主婦もやって来ますし、犬中達も大勢集まって来ました。そして、チワワを見たとか見ないとか、口々に喋るのです。それを聞いていますと、しまいには、チワワという芸妓が、果してゆうべ来たのかどうか、それさえ怪しくなって来ます。